●倉谷 滋博士(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター グループ・ディレクター)
「脊椎動物の分子進化発生学に関する研究」
発生生物学はきわめて長い歴史を有する生物学の研究領域であり、生き物の個体発生のプロセスが系統発生の過程でどのように形づくられてきたかという進化学的にとても興味深いテーマを究明しようとする。しかも、発生生物学研究は、比較解剖学の長い伝統の上に、近年の分子発生学の知見を武器とする分子進化発生学という最先端の分野となり、国際的にも研究の進展が著しい。
倉谷滋博士は、長年にわたり、脊椎動物の頭部形態に関する詳細な進化発生学的研究を行い、ヤツメウナギの顎の形態形成とそれに関与する遺伝子の解明、そしてヌタウナギの個体発生の記載などの先駆的研究成果をScience、Nature誌などトップ・ジャーナルに次々と発表し、それらの業績は日本だけでなく、世界的に見ても抜きん出ている。さらに、倉谷博士は、発生生物学の長い歴史にも目配りをし、その過程で多くの先駆者たちが格闘した個体発生と系統発生に関わる古典的問題を現代の分子発生学の観点から見直すという姿勢が顕著である。生物学史の深い教養に支えられた確固たる研究のあり方、そのたぐいまれな研究上の生産性、そしてそのインパクトの大きさなどいずれをとっても、倉谷博士は他の進化生物学徒にとって将来にわたる模範となる資質を備えている。