●郷 通子博士(お茶の水女子大学 学長)
「タンパク質の立体構造と遺伝子の構造の進化的起源に関する研究」

 

今日、多種多様な生物のゲノム配列が決定され、プロテオーム解析もすすんでいるが、DNAやタンパク質の1次配列の解析だけで明らかにできる生命科学の研究には限界がある。特に、タンパク質の分子進化、機能や構造の進化について研究を推進しようとする際には、この限界は明らかである。郷通子博士の進化学における大きな貢献は、タンパク質の立体構造に基づいた分子進化および立体構造と遺伝子構造の進化についての研究を発展させたことである。タンパク質の分子進化は従来アミノ酸の1次配列の置換の過程についての解析が中心として行われてきたが、ここに立体構造を基礎にしてその機能や構造、また遺伝子の構造との関連で分子の進化を捉えるという新しい視点を取り入れた。


これらの研究は、タンパク質の立体構造と遺伝子の構造の関連に関する世界的な議論に大きな影響を与えた。さらに、郷博士はタンパク質の立体構造と機能単位に関する研究に基づき、ゲノム配列解析から明らかになった未知のタンパク質の機能の推定や、立体構造のモデリングの方法開発等にも貢献した。郷博士が長年にわたり取り組んできたタンパク質の立体構造と機能の進化に関する研究はタンパク質の分子進化研究の発展に新たな視点と論点をもたらした点で、大きく評価されている。